18. アトピー性皮膚炎の症例


 何か抽象的で分かりにくいという人のために、それぞれ年代に分けて、症例を示します。
 やはりよく分からないと、感じる人も多いかもしれません。
 アトピー性皮膚炎の原因や治療は単純なものではないと、納得していただければと考えています。
 これまで述べてきたことのまとめと応用問題にもなっています。

 検査の意味
正常値は他の項目を参照して下さい。

1.乳児アトピー性皮膚炎の軽症例

 初診(12月10日)のとき、患者は6カ月の母乳栄養の男児。

 生まれて2週間ころ、頭に軽い脂漏性湿疹があったが、普通に洗っているだけで自然によくなった。
 秋になり、生後5カ月ころ突発性発疹にかかった頃より顔が乾燥し始めた。
 寝返りをするころから頬がいくらか赤くなってきた。
 昨日離乳食に少し卵を入れたおかゆを与えたところ、顔が真っ赤になり、来院した。

 採血すると、IgE 25 IU/ml、RAST値は卵白5.85 Ua/mlと高くなっていたことを除いて正常範囲、IgG 576 mg/dl、IgA 57 mg/dl、IgM 88 mg/dl、白血球数10300 /mm3、好酸球4%(410 /mm3)であった。
 頬の湿疹の細菌培養では、黄色ブドウ球菌は検出されなかった。

 乾燥肌はセッケンで洗いすぎないように注意した。
 紅斑を伴った頬には入浴後うすくプロペトを外用して経過をみた。

 離乳食で卵は完全除去とした。
 母の卵摂取は症状の経過と関係なく、また母乳継続のためにも母親の食事は制限しなかった。
 なお湿疹がひどくなればトパルジック軟膏を外用するように指示した。
 (注:最近は、湿疹がひどいときは非ステロイド系外用剤でなく、ステロイド外用剤を使うことも多くなっています。そのまま、プロペトで経過を見ることもあります。)

 歯が生え始めた頃よりよだれが多くなり、8カ月のとき頬の紅斑はまだ続いていた。
 IgE 45 IU/ml、卵白RAST値13.63 Ua/mlと上昇していた。
 足首と肘窩に軽い湿疹も見られた。

 生後11カ月末ころより顔の湿疹はかなりよくなった。
 肘窩や足首に少し湿疹が残っていた。
 外用剤はワセリンを時々使う程度であった。
 IgE 68 IU/ml、卵白7.88 Ua/ml。
 卵白のRAST値が低下してきたため、卵を加工品より徐々に解除するように指示した。

 母の話では、先週間違えて卵の入ったパンを少し食べさせたが何もなかったということから、1%の全卵を溶いた小麦に混ぜてホットケーキを作り、楊子の先ほどの量から順次少しずつ増やしながら食べさせた
 スプーン2杯程度まで食べても症状はみられなかった。
 全卵を2%に増やして再びごく少量から与えた。
 特に変化無く、全卵の量を5%、10%と増やしたが何も起こらなかった。
 次に市販のカステラを再びごく少量から与えた。
 倍々と増やして一切れの半分を食べても変化無かった。

2.乳児アトピー性皮膚炎の重症例

 初診(12月20日)のとき、患者(8月17日生まれ)は 4カ月の母乳栄養の男児。

 生後まもなくより頭部や顔に湿疹があり、生まれた産婦人科でステロイド外用剤をもらったて塗るとすぐによくなった。
 しかし、外用を止めて数日後には再び悪化した。

 生後1カ月すぎころ、姉より風邪をうつされ、肺炎となり、1週間ほど入院した。
 この時、湿疹は一時的によくなった。
 退院後、湿疹は再び悪化、少しずつ体にも拡大した。

 その後、何度か発熱を繰り返し、小児科で風邪薬をもらっていた。
 湿疹がひどくなるとステロイド外用剤を塗っていた。

 生後 3カ月のとき水痘にかかってからさらに悪くなり、四肢伸側にも広がってきた。
 ステロイド外用剤を心配し、外用をひかえていたところ、顔の湿疹がひどくなり、当科を受診した。

 体幹、四肢には円形、環状の500円玉大の発疹が散在していた。上下肢の伸側には乾燥性の紅斑もみられ、下腿部は掻破のために引っ掻き傷がみられた。
 顔面、額部、頭部にはびらんを伴った紅斑が広がっていた。
 頬部の湿疹はびらん、浸出液を伴い、痂皮が付着していた。

 母の実家ではヨークシャーテリアを1匹室内で飼っていた。
 出生後1カ月くらいまで、母と姉とともにそこで生活していた。
 1週間に一度程度の回数で実家に行くが、そのたびに悪化する傾向が見られた。
 患児は犬と接触させていなかった。

 IgE 456 IU/ml、RAST値は卵白78.34 Ua/ml、卵黄5.67、鶏肉0.05、牛乳24.77、小麦6.95、大豆1.53、米0.37、ハウスダスト5.99、Df 0.06、Dp 0.04、犬皮屑38.33、猫皮屑0.10、タラ2.32、牛肉4.07と高くなっていた。
 白血球数18900 /mm3、好酸球24%(4540 /mm3)と、非常に高くなっていた。
 著明な浸出液のためにタンパク質が失われていることもあり、TP(総タンパク質)4.3 g/dl、A/G 2.1と血液中のタンパク質が低下していた。
 IgG 276 mg/dl、IgA 19 mg/dl、IgM 28 mg/dlとIgG とIgA が標準より低く、頬の湿疹の細菌培養では、黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出された。

 このままではかゆみのために夜間十分な睡眠がとれないため、やむなく顔面にもステロイド外用剤を再開した。
 体幹・四肢の湿疹は、主として貨幣状の湿疹とびらんの多いところに亜鉛華軟膏に混合したステロイドを外用することとした。
 あまり湿疹が強くなければアズノール軟膏で経過をみることにした。

 母の実家の室内犬を他にやることはできず、患児を実家に連れていくのを控えてもらった。
 やむなく連れていくときは、できる限り犬を入れない部屋に患児を隔離することとした。

 ステロイドを外用すると顔の湿疹はやや落ち着いた。
 貨幣状の湿疹はそれほどよくならなかった。

 生後6カ月になり顔の湿疹は少しよくなったが、首から下の湿疹はそれほどよくなっていなかった。
 IgE 1279 IU/m
l、RAST値は卵白187.22 Ua/ml、卵黄23.19、牛乳67.52、小麦17.64、大豆3.11、米0.78、ハウスダスト4.56、Dp0.23、犬皮屑45.31、猫皮屑0.19、サケ2.59。
 白血球数13300 /mm3、好酸球18%(2390 /mm3)。

 果汁、野菜類、おかゆから離乳食を開始したが、症状に変化なかった。
 母乳が足りなくなり、アレルギー乳ののびやかを追加した。
 のびやかを与えると、便が軟らかくなるので、少しうすくして与えた。
 それでも下痢気味なのでMA-1に変更した。
注:この症例は平成13年ころのものです。アレルギー用ミルクは、現在、ニューMA-1、MA-1・mi(以上森永乳業)、ミルフィーHP、エレメンタールフォーミュラ605Z(以上明治乳業)などが用いられています。)

 みそ汁の上澄みをほんの少し飲ませたが変化ないため、少しずつ量を増やした。
 1週間後、豆腐をスプーンの先にほんの少しつけて食べさせた。
 2時間後まで様子をみたが変化なく、少しずつ量を増やして与えることにした。

 シラスを1匹の3分の1くらいをおかゆに混ぜて与えたが症状に変化ないため、1匹、2匹と徐々に増やした。

 7カ月半ばころ、市販の乳児用カボチャスープを少し与えたところ、顔が赤くなり、1時間後には体に蕁麻疹のような紅斑が現れた。
 かゆみがあり患児の機嫌も悪くなった。
 かゆみ止めを飲ませ、安静にしていると、数時間後には自然に消えた。
 スープの表示を見ると、牛乳が含まれていた。

 豚肉のひき肉を湯通ししてほんの少し食べさせたが変化なく、少しずつ量を増やしながら食べさせることにした。

 生後9カ月を過ぎて、顔面の湿疹は、ひどくなってもトパルジック軟膏を少し外用する程度でよくなった。
 体幹もほとんどアズノール軟膏だけでうまくいくようになった。
 体の湿疹は気候が暖かくなるにつれて徐々に乾燥肌が改善し、赤みが減ってきた。
 の始めころ、頸の後ろから背中にかけてあせものような発疹ができたが、カチリ(フェノール亜鉛華リニメント)をぬるとよくなった。

 10カ月ころ、おかゆに0.1%くらいの小麦粉を混ぜたものをほんの少し与えた。
 変化ないため、毎日慎重に少しずつそれの量増やした。
 小麦粉の割合が2%くらいになったところでウドンに変更し、ごく少量与えたが何も起こらなかった。
 しかし、ウドンを1cmほど食べさせると少し顔が赤くなったように思えたので、しばらくその量を繰り返して与えることにした。
 そうしているとその量では症状が現れなくなった。
 与えるウドンの量を増やして行くと、10カ月末にはお昼にウドンを食べても何も起こらなくなった。
 
 11歳のとき、IgE 520 IU/ml、RAST値は卵白 55.31Ua/ml、卵黄6.39、牛乳43.59、小麦10.86、大豆2.96、米0.23、ハウスダスト6.28、Dp 1.89、犬皮屑36.76、猫皮屑0.11。
 IgG 476 mg/dl、IgA 33 mg/dl、IgM 189 mg/dl、白血球数10900 /mm3、好酸球11%(1220 /mm3)。
 秋になり、再び体に前と同じような湿疹が現れた。
 特に、10月になって高熱が出てからは、急に全身の乾燥肌がひどくなった。
 円形・環状の湿疹の数も増えた。
 顔面は乾燥して赤くなり、口囲の湿疹が多少ひどくなった。
 びらん、滲出液はほとんどなく、トパルジック軟膏の外用程度で十分であった。

 1歳5カ月になり、体の湿疹が多少よくなってきた。
 小麦を水に溶いて0.1%の全卵を加えたパンケーキを作り、ほんのひとかけら食べさせた。
 2時間後まで特に異常はなかった。
 1日に何回か繰り返しながら、少しずつ量を増やした。
 3日後、スプーン1杯与えても変化ないことを確認した。
 翌日、0.2%に卵の量を増やし、同じように少しずつ与える量を増やした。
 10日後、1%をスプーン1杯程度与えたところ、1時間半後にお腹の回りに少し赤みが現れた。
 いくらかかゆがったので、かゆみ止めを飲ませ、安静にした。

 そこでもう一度0.5%に戻し、3日間、1日に何回か繰り返した。
 再び1%に増やして、少しずつ与えた。スプーン1杯になっても何も起こらなかった。
 次の日、2%に増やし、毎日少しずつ増やしたが症状はなかった。さらに4%に増やして同じことを繰り返した。
 その後、10%まで増やしたが、何も起こっていない。
 市販の牛乳の入っていないお菓子を少しずつ食べさせたが症状に変化無かった。

 次に、牛乳の加工品を食べさせるために、MA-1に普通の粉ミルクを0.1%混合し、箸の先にほんの少しつけてなめさせた。
 2時間後まで何も変化がないため、卵と同じようにほ乳びんに半分くらいまで4日間かけて毎日少しずつ量を増やした。
 以後、0.2%、0.5%、1%、2%と粉ミルクの割合を少しずつ増やした。

 1歳7カ月のとき、IgE 265 IU/ml、RAST値は卵白 25.31Ua/ml、卵黄2.10、牛乳35.88、小麦3.26、大豆1.11、米0.21、ハウスダスト19.88、Dp15.65、犬皮屑23.65、猫皮屑0.10、白血球数7900 /mm3、好酸球6%(470 /mm3)。
 湿疹は肘の内側と足首の前に少し残っているが、アズノール軟膏を時々塗っている程度である。
 ただ、1歳ころより風邪をひくとゼロゼロした呼吸が見られ、近医で喘息様気管支炎と言われている。
 ひどいときは、オノンドライシロップの内服とホクナリンテープ(0.5mg)の貼付を用いている。
(注:抗ロイコトリエン剤にはオノン(プランルカスト水和物)の他に、夜一回だけ内服するキプレス・シングレア(モンテルカストNa)もあります。いずれも気管支喘息の長期管理・発作予防として用いられています)

3.小児アトピー性皮膚炎の軽症例

 初診(6月18日)のとき、患者は8歳の小学2年生の男児。

 生まれて4、5カ月ころ顔に少し湿疹があった。
 近医でステロイド?をもらって2、3回塗っただけでよくなった。
 その後、冬に軽い乾燥肌がある程度で特に何もしていなかった。

 幼稚園に入った頃、肘窩とおしりにかゆみのある湿疹が出現した。
 これも残っていた外用剤をつけるとすぐによくなった。

 小学生になり、再びおしりに湿疹が現れた。
 肘窩、膝窩にもかゆみのある湿疹できたということで当科を受診した。

 IgE 318 IU/ml、RAST値は、卵白1.86 Ua/ml、牛乳0.11、小麦0.26、大豆0.38、米0.23、ハウスダスト58.92、Df 69.37、Dp 55.88、犬皮屑0.26、猫皮屑6.32、カンジダ3.62、クラドスポリウム8.61、ブタクサ0.26、カモガヤ25.62、スギ19.99となっていた。
 白血球数 8200 /mm3、好酸球 6%(490 /mm3)とやや高く、LDH 320 U/L、CRP 0.1、ASO 126、肘窩の湿疹の細菌培養では、黄色ブドウ球菌が検出された。
注:LDHは古い検査法による数値になっています。現在、LDと表記されています。)

 今年の春ころよりアレルギー性鼻炎と結膜炎が出現し、5月末ころまで続いた。
 花粉症があるが、スギ花粉以外にイネ科花粉のアレルギーもあると説明した。

 とりあえず気管支喘息の症状はこれまでないということだが、ダニ(Dp、Df)など吸入アレルゲンが高値になっており、そのうちにそれが発症する可能性もあると説明した。
 さらに、秋から冬にかけての衣替えの時期には、掛け布団や毛布まで布団用の先端をつけて掃除機をかけるように指示し、父の喫煙はできれば自宅内ではひかえるようにと説明した。
 とくに、ASO値が高いことから、扁桃組織には溶連菌が常在しており、風邪をひくと、溶連菌感染症も合併し、それがアレルギーを起こす可能性も注意した。

 症状をみると、頸部、肘窩、膝窩、臀部でんぶなどにやや苔癬化し、引っ掻き傷のある湿疹が見られた。
 臀部の湿疹は全体が紅斑となり、部分的に盛り上がった痒疹になったところがあり、かなりのびらんを伴っていた。

 夜間寝ながら引っ掻いており、時々かゆみで目が覚めたり、寝られないこともある。
 寝る前に1回、抗ヒスタミン剤(アタラックスPドライシロップ)内服し、夜間のかゆみは減った。
 臀部はびらん部はイソジンで消毒し、アクアチム軟膏と亜鉛華軟膏を外用していくらか軽くなった。
 その他の部位はレスタミン軟膏で経過を見ていた。


 学校の座席や自分の学習時の椅子には軟らかい座布団を敷くように指導した。
 パンツはブリーフタイプに変更した。

 しかし、本人の希望もあり、ひどいときだけ外用するという条件で弱くしたステロイドを処方した。
 秋から冬になり、汗が少なくなったころになり、臀部の湿疹を除いてほとんど湿疹はよくなった。

 おしりの湿疹はどうしても悪化・軽快を繰り返す傾向があった。
 低温熱傷に注意して、衣類の上から使い捨てカイロをはる温熱療法をすすめたが、患者がいやがってやってくれない。

 母は、主治医の指示通りにずっと掛け布団まで掃除機をかけ、毛布は使っていない。じゅうたんを掃除する回数を増やし、食べこぼしが落ちないように注意している。
 浴室・洗面所の床や壁の拭き掃除も毎週やっている。

4.小児アトピー性皮膚炎の重症例

 初診のとき、患者は9歳の小学3年生の女児。

 生後まもなくより、頭部や顔に湿疹があった。
 生まれた産婦人科でステロイド外用剤(アルメタ軟膏?)をもらったて塗るとすぐによくなった。
 しかし、外用を止めると湿疹が悪化するため、ずっと小児科でもらったステロイド外用剤を使っていた。
 小学生になり、顔面の湿疹ははほとんどなく、主に肘窩や膝窩に外用する程度になっていた。

 昨年夏、伝染性膿痂疹(とびひ)を3回繰り返したころより、ステロイドの外用する量が増え、次第に間擦部を越えて湿疹が広がってきた。

 小児科で卵、牛乳、小麦、大豆、牛肉、砂糖、油脂の制限を指示された。
 日本食を中心にしたもの変更したが、さらに眼囲、上下肢全体に湿疹が広がった。

 両親が心配し、ステロイドの外用を止めたところ、全身に湿疹が拡大した。
 漢方薬がよいということで、半年間それをやっていた。

 夜も寝られず、学校を休むようになり、結局ステロイド外用剤を再開した。
 しかし、かなりステロイドを外用したものの、全身に落屑を伴った紅斑が続いた。

 再びステロイドの外用を中止したところ、全身の湿疹がさらに悪化した。

 2、3日前から39℃の発熱とともに、顔面から頸にかけて、びらん・浸出液・痂皮を伴って水疱が出現し、当科を受診し、入院となった。

 IgE 9633 IU/ml、RAST値は卵白0.82 Ua/ml、牛乳0.56、小麦7.31、大豆8.69、米7.62、ハウスダスト865.3、Df 963.2、Dp 1035.8、犬皮屑0.86、猫皮屑0.55、カンジダ59.27、ブタクサ12.66、カモガヤ287.44、スギ105.11、SEA 23.63、SEB 5.49となっていた。
 白血球数11200 /mm3、好酸球2%(230 /mm3)、LDH 590U/L、CRP 5.6 mg/dl、ASO 326 IU/mlと高く、水疱より単純ヘルペスT型が検出された。身長118 cm、体重22.2 kg、いずれも2年前よりほとんど増えていない。

 昨春ころよりアレルギー性鼻炎と結膜炎がひどく、ステロイドの点鼻、点眼を行っていたが、鼻炎のひどいときには耳鼻科でもらったセレスタミン(ステロイド)を内服していた。

 カポジ水痘様発疹症としてゾビラックスを点滴し、溶連菌感染も伴っており、ケフレックスも内服した。
 湿疹は感染症のためにかなり軽減し、当初はワセリンのみで十分であった。

 しかし、単純ヘルペスがよくなるとともに、徐々に湿疹やかゆみが悪化してきた。

 父母と相談し、できるだけ早く学校に復帰するためにステロイド外用を再開することにした。
 多少炎症を伴った乾燥肌を残して、外用によって紅斑はかなり軽くなった。
 それでも、入浴時や夜間寝る前のかゆみはほとんど変わらなかった。

 3年後の現在、ステロイド外用量は徐々に減っているが、外用しないと体幹・四肢の湿疹が悪化する。ただかゆみは以前ほど強くない。

 寝る前1回の抗ヒスタミン剤の内服は続けている。春先から夏にかけて花粉症がひどく、湿疹も汗が多くなると共に悪化する傾向がある。

 海水浴でよくなるものの、乾燥肌は一年中続いている。
 1日2回のうがいを指示しているが、忘れがちで、年に2回程度扁桃炎で高熱が出る。

 1年前、カポジ水痘様発疹症が顔面に再発したが、本人が気がついて初期にゾビラックスを内服し、発熱せずに済んでいる。
 IgE 5211 IU/ml、白血球数7820 /mm3、好酸球8%(630 /mm3)、LDH 451 U/L、CRP 0.1 mg/dl、ASO 253 IU/ml。
 

5.成人アトピー性皮膚炎の軽症例
 

 初診のとき、19歳男子大学生。

 乳児期に軽い湿疹があった。
 近医で外用剤をもらってよくなったというが、詳細不明。

 幼稚園から小学校低学年にかけて、春の終わり頃から夏に肘窩などに湿疹がみられた。
 ひどいときは皮膚科の外用剤を使っていた。
 その後小学校高学年から高校生の間は、ほとんど湿疹は見られなかったとのことである。

 幼稚園ころ、軽い喘息があったが、近医で吸入してよくなっている。
 小学生ころからずっと鼻閉が続いている。

 大学に入学し、一人暮らしを始めた頃から、肘窩と頸部の湿疹が出現してきた。
 原因精査を希望し、当科を受診した。

 患者はワンルームマンションの2階に住み、昼間不在中は閉め切りで、夜帰ってから窓を開けることも少ない。
 駅から歩いて10分程度で便利である。
 国道に面し、外のベランダに洗濯物を干すと真っ黒になる。
 小窓を開けるとその部分のカーテンが黒くなる。

 どうせ昼間はほとんどいない上に、コンビニでバイトを始めてからは、マンションはほとんど寝に帰ってくるだけというのは患者の弁。
 コンビニも交通量の多い幹線道路脇に立地し、週に3日は昼間、その他3日は、夕方から夜11時ころまで働いている。

 朝食はとらず、朝昼兼用をコンビニ弁当か学食で外食している。
 夕食は持ち帰り弁当か外食、帰宅してからカップラーメン食べることもある。

 掃除はせいぜい2週間に1回程度である。
 部屋全体が足の踏み場もないほどほこりやゴミがたまっている。
 里の母親が2、3回掃除したが、すぐに汚れるということで母親も最近は掃除するのを止めている。

 5月に感冒に罹患し、扁桃炎のため高熱があり、1週間休んだことがある。

 夏休みに2週間ほど実家にいたとき、湿疹はかなりよくなったという患者の話から、今の生活に悪化の原因があると判断した。
 しかし、高い礼金・敷金や費用の問題もあり、簡単に引っ越しもできなかった。
 都市生活を維持するためにバイトをやめることもできなかった。
 掃除はそのうちに恋人でも見つけてやってもらうと気楽に話しており、あまり積極的ではない。

 IgE 773 IU/ml、RAST値は卵白0.29 Ua/ml、牛乳0.02、小麦0.32、大豆0.15、ハウスダスト132.5、Df 118.1、Dp 167.4、犬皮屑7.44、猫皮屑0.11、カンジダ4.11、ブタクサ0.33、カモガヤ23.92、スギ18.37となっていた。
 白血球数6500 /mm3、好酸球4%(260 /mm3)、GOT 16 U/L、GPT 15 U/L、LDH 298 U/L、CRP 0.1 mg/dl、ASO 120 IU/ml。

 肘窩と頸部に引っ掻き傷といくらか色素沈着のある湿疹が見られた。
 ステロイドの外用はしたくないということなので、多少しみるがケラチナミン軟膏の外用と夜1回の抗アレルギー剤(アゼプチン)の内服で経過をみた。
 多少かゆみが減ったものの、湿疹はよくならなかった。

 大学3年になり、再び引っ越したころから急にかゆみが減った。
 現在は軽い色素沈着を残してよくなっている。
 引っ越したところは、築7、8年のワンルームマンションの7階で、駅からは近いが、幹線道路からは離れたところにある。

 患者も主治医も、原因が住宅にあったのか、住宅の場所にあったのか、実のところはっきりしないでいる。
 花粉症
がひどくなったと、本人はもっぱらそればかり気になっている。


6.成人アトピー性皮膚炎の重症例

 初診のとき、31歳の女性、主婦。

 子供のころ湿疹があったというが、母親(両親は5歳のとき離婚)はほとんど覚えていない。

 幼稚園から小学校、中学校にかけて肘窩などに軽い湿疹があり、市販の外用剤を使っていた。
 短大に通い始めて化粧品で顔に湿疹ができたことがあり、それがよくなるまでに半年以上かかった。

 仕事(繊維卸会社)の事務を始めた頃から再び顔に湿疹ができるようになったが、近医でステロイドをもらって外用していた。

 25歳のとき同僚と結婚。
 5カ月くらいすぎたころより、首から胸にかけて湿疹が出現してきた。
 ステロイド外用剤を使っていたが、次第に体全体に広がった。
 会社をやめて一時軽くなった。
 それでも外用を控えるとすぐに悪化するため、仕方なく外用を続けていた。

 そうしているうちに、夫の家族がステロイドの外用剤をずっと使っているのを心配し、温泉水でよくなったという話を聞いてそれを患者にすすめた。

 アトピー性皮膚炎の温泉治療をやっているところを訪れた。
 話を聞くと、温泉水に1日3回入って、ステロイドの入っていない軟膏を塗っていると、半年くらいですっかりよくなると言われた。
 とりあえず100万程度を出して、宅配の温泉水を半年分と、そこが出している塗り薬を購入した。

 ステロイドの外用をやめて3、4日目より、全身の紅斑が増強し、10日目には顔が腫れあがる状態になった。
 温泉水を買うとき、ステロイドの副作用でひどくなるが、毒を出さないとよくならないと説明されていたので、ほとんど何もできないままじっとベッドで寝ていた。
 1カ月過ぎて相変わらず全身に湿疹が広がった状態が続いていた。

 そのころ、眼周囲から38℃程度の発熱を伴って水疱が多数現れ、近くの皮膚科を受診した。
 カポジ水痘様発疹症と診断され、ゾビラックスを内服した。

 その皮膚科で、感染症がよくなってから、湿疹が余りにもひどくなっているので治療が必要と言われた。
 のみ薬と容器に入った塗り薬をもらった。
 それらの薬を使うと、一時はほとんど湿疹はよくなり、全身の乾燥肌だけが残った。
 しかし、のみ薬がなくなって、塗り薬だけで様子を見ていると、10日後あたりから再び湿疹が悪化、前にもまして赤く、腫れるように様になった。
 仕方なくもう一度内服をもらったが、同じ量を飲んでも前回ほど良くならなかった。

 その後内服の量を自己判断で調製しながら、温泉療法も併行して続けていた。
 およそ3カ月後、カポジ水痘様発疹症が再発し、再びゾビラックスを内服した。
 熱が下がらず、顔全体に水疱が広がったため、市民病院を紹介され、入院した。
 ゾビラックスを点滴し、単純ヘルペスは軽快した。

 入院中、主治医からのみ薬がステロイド(リンデロン)である教えられた。
 外用剤としてステロイドにアンダーム軟膏が混合しているために、アンダーム軟膏の接触皮膚炎を起こしている可能性も指摘された。
 しかし、ステロイドの内服を中止すると湿疹が悪化するため、ステロイド剤のセレスタミン2錠/日を内服し、デルモベート軟膏を全身に使用して湿疹はかなりよくなった。

 退院して1カ月ころ、外出すると右眼がまぶしくなり、急に視力が低下してきたため眼科に行くと、白内障で手術が必要と言われた。
 同じ市民病院の眼科で白内障の手術を行った。

 術後、虹彩毛様体炎?が強く、一時かなりの量のステロイドを内服した。
 このとき湿疹は、再び乾燥肌を残してほとんどよくなった。
 退院後、術前のセレスタミン1錠/日に内服をもどしたころから少しずつ湿疹が悪くなった。

 市民病院の皮膚科の主治医は他の病院に転勤し、新しい医師に従って同じ治療(セレスタミン内服とデルモベート軟膏の外用)を続けていた。

 29歳の誕生日ころ妊娠。妊娠4カ月ころから再び悪化、セレスタミン3錠/日に増やしたがそれほどよくならなかった。
 紅皮症状態で女の子を出産した。

 子育てはできず、子供は夫の母親が育てている。
 出産後1年が過ぎ、いくらか症状は落ち着いているが、セレスタミン2錠/日の内服は続けている。
 当科には、夫の会社の知り合いに紹介されて来院した。

 顔面全体に苔癬化した紅斑がみられる。
 全身の皮膚はやや薄くなり、上肢には皮下で出血した紫斑も認められる。
 体幹と上下肢に貨幣状、痒疹状の発疹が多数散在している。
 頸部はさざ波状に色素沈着している。上下肢に掻破痕が少数みられる。
 頭部全体に落屑を伴って紅斑があり、右耳の後方には円形でない不規則な脱毛斑もみられる。

 患者と家族に対して、長期にわたってステロイドを内服することの問題点をまず説明した。
 内服すると最初はよく効くが、自分の健常な免疫も抑制されるために徐々に効きにくくなること、一度内服すると中止するのは非常に難しく、急に中止するとひどい状態になること、内服する以上に有効な治療がないことがあること、皮膚の菲薄化すること、外用剤などによる接触皮膚炎などが起こりやすくなること、白内障を起こす可能性も高くなることなどである。

 デルモベート軟膏は最強のステロイド外用剤であり、顔面に使用するには強すぎると説明した。
 実際は、患者は顔面にはそれをほとんど使用せず、主として市販の化粧クリーム、化粧液を使っていた。

 貨幣状型あるいは痒疹型の発疹は、内科的要因を含めて、全身的な要因が関与しており、結局のところステロイドを外用する以外にないかもしれないが、ステロイドが二次的に作り出したものである可能性もあることも説明した。

 以上のことを踏まえて、とりあえず少しずつ内服しているステロイドを減らすことにした。
 しかし、セレスタミンを1錠/日とし、外用剤を弱くした混合剤に変更したところ急速に悪化し、精神的に不安定な状態であったためにそれのケアもかねて入院となった。

 IgE 2801 IU/ml、RAST値は卵白0.09 Ua/ml、牛乳0.01、小麦0.28、大豆0.05、ハウスダスト1.15、Df 1.80、Dp 0.92、犬皮屑1.11、猫皮屑0.95、カンジダ81.46、ブタクサ0.37、カモガヤ6.53、スギ9.07となっていた。
 白血球数8070 /mm3、好酸球2%(160 /mm3)、GOT 29 U/L、GPT 28 U/L、LDH 432 U/L、CRP 0.1 mg/dl、ASO 390 IU/ml、コーチゾル1.8μg/dl、IgG 1932 mg/dl、IgA 266 mg/dl、IgM 132 mg/dl、抗核抗体160倍陽性。
 
パッチテストで、アンダーム軟膏、アルメタ軟膏、化粧クリームが陽性であった。

 耳鼻咽喉科で扁桃肥大と無症状のアレルギー性鼻炎、眼科で同様に無症状のアレルギー性結膜炎と左眼にも今のところ手術は必要ないが白内障を指摘された。

 入院後、日光は避け、顔面は酸性化粧水のみとし、漢方薬を1種類加えたほかは、他の治療は外来と同じものを続けることにした。
 入院当初はかゆみのために上下肢のびらんが強く、夜間眠れない状態であった。

 2週間経った頃からかゆみが減り始め、湿疹も外用剤に反応してきた。
 1カ月後、セレスタミンを1日おきに1錠/日に減らしたが、悪化はなかった。
 さらに内服する間隔を開け、2カ月半後には内服を中止した。

 その後、顔面にはかなり紅斑が残っていたが、入院前よりも相当軽くなった。
 体幹、四肢の湿疹も、外用剤で生活に支障ない程度にコントロールできるようになった。

 しかし、退院を前にして外泊したところ、突然かゆみと湿疹が悪化してきた。
 患者は結婚後、夫の両親に近いところに新築したマンションを購入した。
 マンションは9階建てで、患者はその2階に住んでいた。
 アレルギー対策として、全室フローリングであり、じゅうたんは用いていなかった。
 カビに対するRAST値が高かったが、特に湿気が多いわけではなく、浴室や台所の壁にカビは見られなかった。

 夫は昼間不在で、夫の母が時々掃除をしていた。
 マンションは患者の入院中ずっと締め切っていた。
 患者は外泊中、たまっていた洗濯と掃除に追われ、そのことが悪化の原因である可能性もあった。
 掃除の間に何かアレルギーの原因になるものを吸入したと考えた。

 発疹がある程度よくなったところで、外泊中何もしないと約束して、もう一度外泊した。
 しかし、外泊前、義母が徹底的に掃除していたにもかかわらず、発疹は外泊後悪化した。
 結局、普通の掃除では除けない物質によるアトピー性皮膚炎と結論した。

 本人の実家ではそれほど悪化しないことを外泊により確認し、退院した。
 退院後は夫と別居して、実家で静養している。

 四肢の貨幣状湿疹はまだかなり残っており、ステロイドを外用するといくらかよくなるが、やめると悪化する。
 扁桃肥大があり、そこに住み着いている細菌のアレルギーを考えて扁摘も検討している。

 顔の湿疹にプロトピック軟膏をつけてみることを提案したが、今のところ患者はそれを拒否している。
 抗ヒスタミン剤と漢方薬は相変わらず内服している。


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