アトピー性皮膚炎と「化学物質」

Q.
27歳の主婦です。半年前に新築のマンションに引っ越してから体がだるく、頭痛もありました。
最近、体全体がかゆく、顔に湿疹が出るようになりました。

A.
住居の化学物質による過敏症、いわゆるシックハウス症候群と考えられる。

化学物質過敏症の症状は、
発汗異常や冷えなどの自律神経症状
不眠・不安・うつ・頭痛などの神経・精神症状
咽頭痛・鼻炎・喘息などの呼吸器症状
吐き気・下痢・便秘などの消化器症状
眼の刺激・調節障害、
味覚異常などの感覚器症状
不整脈などの循環器症状
生理不順や甲状腺障害などのホルモン異常など、
全身の様々な臓器に現れる。

皮膚科的には、薬疹・中毒疹に近いものであり、実にいろんなタイプの発疹が見られる。
鼻炎や結膜炎とともに繰り返し現れる蕁麻疹、眼や鼻周囲のかゆい湿疹がまず上げられる。
特に、露出部である顔面が影響を受けやすく、化粧品などによる接触皮膚炎と間違われやすい。

また、下腿や躯幹に貨幣状や痒疹型の発疹が出現することもある。
尋常性ざ瘡(にきび)、多毛や円形脱毛のような症状もある。全身のドライスキンやドライアイのような乾燥症状は、最近の住居の湿度が冬季に低くなりやすいことも一因しているが、化学物質による免疫系やホルモン系の異常が関与している場合がある。

アトピー性皮膚炎患者はもともといろんなものにアレルギーを起こしやすい体質があり、ダニやカビなどのタンパク質だけでなく、住居から発生する様々な種類の化学物質に対してもアレルギーを起こしやすいと考えられる。
また、化学物質の中には、免疫状態を変化させ、たとえばそれまでなかったダニに対するアレルギーを作り出したり、強くするようなものも存在する。
これまで、花粉症が、花粉の飛散量が同じであっても、排気ガスの多い道路沿いの住民に多く発生することはよく知られている。
交通量の多い幹線道路沿いでは、アトピー性皮膚炎や喘息が多いとも言われている。
アトピー性皮膚炎は、発展途上国で少なく、田舎より都市に多く、環境の悪化に起因する文明病であることは間違いない。

次回はそんな化学物質の種類について考えてみたい。

Q.
28歳の主婦です。昔から湿疹があります。
無農薬野菜がアトピー性皮膚炎によいと言われて半年前から続けていますが、
なかなか湿疹がよくなりません。

A.
前回説明したように、アトピー性皮膚炎が治りにくい原因の一つとして、様々な化学物質がある。

化学物質は、生体への侵入経路から、
  @水や食物などを通じて口から入るもの、
  A空中にあって鼻・眼・肺から入るもの、
  B皮膚から直接入るもの
に分けられる。

@の代表的なものは、添加物や農薬である。
現代人はこれらを年間数キロ程度、知らず知らず摂取している。
これらが原因でアレルギーが起こる患者がいるが、それを診断したり、その物質を特定するのはまことに難しい。
そんなものが入っていない食事に変更して症状の変化をみるのがよいが、完全に除去するのは困難である。
ただファーストフードばかり食べていると湿疹が悪化しやすいのも確かである。
加工食品を選ぶときは、出来るだけ添加物の少ないものを購入したい。

Aの中で以前からホルマリンが重要視されるが、むしろ揮発性の有機化合物(VOC)の方が重要である。
ホルマリンは年ともに発生量は低下するが、VOCについてはすぐには下がらず、長期にわたって影響が続くことが多い。
VOCは、トルエン、キシレンなどの有機溶媒の他に、パラジクロロベンゼンなどの防虫剤・殺虫剤、塩化ビニルなどの合成樹脂(残留するモノマーが原因となる)、トイレ香水などに含まれる香料、フタル酸類などの可塑剤など、その他非常に多数のものがある。
シロアリ駆除剤は以前は塩素を含んだ有機リン系の薬剤が用いられていたが、その毒性・残留性から現在は使用禁止になったものも多い。
ということは、床下に残った昔の薬剤で症状が現れる可能性がある。
いずれにせよ、ハロゲンを含む化学物質は皮膚貯留性が高く、アレルギーも起こしやすい。

Bとしては、化粧品や衣類が代表的なものである。
衣類の含まれる化学物質としては、銀塩などの抗菌剤、蛍光剤、色素剤の他に、残留した洗剤や柔軟剤なども問題となる。


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