アトピー性皮膚炎の双子例

(出典)

遠藤薫、吹角隆之、足立準、小島益子、青木敏之 : アトピー性皮膚炎の双子例。皮膚、34巻、212-216、1992

 要旨
 3組の1卵生双生児のアトピー性皮膚炎患者を症例報告した。
 いずれの組も、発症時期、アトピー性皮膚炎の既往歴、発疹の分布と形態、および血清IgE値には双子間で差はなかった。
 しかし、ハウスダスト、ダニ、花粉などのアレルゲンに対するRAST値と皮内テストにおいて、双子間で著明な差違が認められた。
 双子分析において、1卵生双生児に見られる差違は環境的要因が原因といわれる。
 今回、1卵生双生児の検査所見を検討することにより、血清IgE値が遺伝的に支配されているのに対して、特異的アレルゲンに対するIgE抗体の産生は環境的要因に影響を受けていると思われる結果が得られた。

はじめに

 遺伝的疾患の発症に対する遺伝因子と環境因子の寄与を調べるため、1875年、Galton らは始めて双子調査を利用したと言われる。
 それ以来さまざまな疾患の研究に双子が用いられ、20世紀の初めのころから欧米では全国規模で双子の登録が行われている。

 古典的には、1卵生双生児は全く同じ遺伝的形質を有していることから、遺伝的要因という発症のパラメーターの一方を固定して1卵生と2卵生を相互に比較することにより、遺伝的要因や環境的要因が発症にどの程度関与しているか検討するために双子調査は利用されてきた。
 また、同じように1卵生双生児間の差違を比較することによって、一致した遺伝的形質に対し、出生後の環境、身体的要因などの後天的な原因がどの程度影響しているか調べることができる。
逆に、ほぼ同じ環境下で育てられたと考えられる2卵生双生児間の差違を比較することによって、まさに発現に対する遺伝的形質の影響を判断することができるとされている。
 しかし、双子分析には、遺伝形式について情報が得られないこと、1卵生から2卵生かの診断に問題があること、適当な標本サイズを確保するのが容易でないことなどの欠点があり、アレルギー疾患の遺伝解析には家族研究(family studies) の方が有用という意見もある。

 皮膚科領域においては、刺激性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎などの遺伝的要因の研究に、スカンジナビア諸国などで双子登録が用いられている。
 アトピー性皮膚炎についても、これまで何人かの研究者が質問表形式で双子調査を行っている。
 
 アトピー性皮膚炎ではその発症に環境的要因の重要性が言われているが、実際にこれらについて検査所見を照らし合わせて双子で検討した報告は、われわれが捜した限りでは見当たらなかった。
 アトピー性皮膚炎の遺伝的要因については、1983年ころよりLarsonらがデンマークの双子登録を使って研究しており、たとえばアトピー性皮膚炎のproband concordance rate (発端者一致率)は1卵生で0.86であり、2卵生で0.21であり、その発症に明らかな遺伝的要因が関与していると報告している。
 しかし、彼らは、HLAや血液型で有意な差違はみられなかったと述べている。
 また、パッチテスト、DNCB感作、ツベルクリン反応で1卵生と2卵生の間に有意差はなかったという報告がある。

 アトピー性皮膚炎の双子の症例報告については、これまで欧米では2、3散見される程度で、我が国では皆無であり、個々の患者を詳細に検討した報告もない。
 当科では、平成元年8月より7月までのわずか1年間に12組のアトピー性皮膚炎の双子患者を経験した。

 今回、そのうち1卵生双生児3組について報告し、この疾患の遺伝的、環境的要因における問題点に関していくらかの知見が得られたのでまとめてみた。

症例

第1組
 患者:5歳、男、1卵生、幼稚園児
 初診:平成元年8月2日
 家族歴:父にアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、母にアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎
 既往歴:兄弟とも1歳半ころより気管支喘息が出現した。弟の方が症状が強く、現在でも春秋の季節の変わり目や旅行先でしばしば喘息発作を起こす。両方にアレルギー性結膜炎、水いぼ、伝染性膿痂疹と弟に尋常性疣贅の既往がある。
 現病歴:いずれも生後4カ月ころより、顔面・体幹に湿疹が出現した。
 その後軽快、増悪を繰り返していたが、今夏スイミングスクールに行って悪化。軽快しないため当科受診した。
 環境:一戸建てで、フローリングしており、じゅうたんは敷いていない。
同じ部屋に起居し、2段ベッドで寝ている(兄が下)。兄は卵がきらいで食べないが、弟は好きでよく食べる。ただし、兄はお菓子などの卵加工品は弟と同じように食べている。
これまで卵制限したことはない。
 現症:兄弟とも体重18kg。全く同じ顔貌で他人には見分けられない。全身に掻爬痕と血痂を伴って著明な紅斑が認められる。兄弟とも眼周囲に著明で、ほぼ同様な分布と皮疹を呈している。
 検査所見:(Table 1) 血清IgE値は兄が704 IU/ml、弟1498 IU/ml。兄のダニRAST値は陰性(Df 0.12 PRU/ml、Dp 0.65 PRU/ml) に対して、弟は顕著な陽性(Df 40.5、Dp 18.3)。(以前の検査法のため単位はPRU/mlになっています。現在はCAP-RASTで単位はUa/mlです)
HDに対しても同様な差がみられた。スギRAST値は逆の所見を示している(兄 3.13、弟 0.28)。
猫毛と卵のRASTはどちらも陽性で、ほぼ同じ値であった。両者の卵のPK試験も軽度陽性を示していた。卵経口PK試験は陰性で、約6カ月卵制限したが無効であった。皮内テストはHD、卵、猫毛はいずれも陽性であったが、カモガヤ、スギは兄のみ陽性であった。

 Table 1 アレルギーの検査のまとめ
  第1組   第2組   第3組 
   兄  弟  姉  妹  姉  妹
 IgE(IU/ml)  704  1498  785  230  2000  2353
 RAST(PRU/ml)
 HD  + 0.20  + 16.07  ±0.03  - 0.02  + 0.43  - 0.08
 Df   0.12   40.50   0.11   0.02   0.30   0.11
 Dp   0.65   18.30   0.20   0.04   1.11   0.14
 卵白  + 7.61  + 6.90  - 0.13  - 0.05  - 0.46  - 0.26
 牛乳  ±0.51  - 0.54  -  -  - 0.20  - 0.11
 小麦  - 0.62  - 0.29  - 0.55  - 0.09  - 1.01  - 0.23
 大豆  - 0.90  - 1.16  - 0.17  + 0.09  - 1.24  - 0.17
 米  - 0.76  - 1.18  -  -  - 2.23  - 0.96
 ブタクサ  + 0.53  ±2.51  - 0.08  - 0.03  - 1.05  - 0.17
 カモガヤ  + 0.57  - 1.15  -  -  - 0.47  - 4.99
 スギ  + 3.13  - 0.28  - 0.04  - 0.02  - 2.72  + 7.92
 犬毛  - 0.29  - 0.09  -  -  - 0.21  - 0.06
 猫毛  + 49.40  + 44.00  - 0.09  - 0.06  - 0.25  - 0.14
 カンジダ   0.09   0.39   1.43   0.20   16.47   7.49
 アルテルナリア   0.04   0.11       0.60   0.26
 アスペルギルス   0.04   0.16       2.06   3.35
 クラドスポリウム   0.05   0.08       1.20  - 0.81
 注1:スコアが2以上異なるRAST値を赤字で示した
 注2:数値の前の+、±、-は皮内テストのそれぞれ陽性、偽陽性、陰性を示す。

第2組
 患者:19歳、女性、1卵生、いずれも銀行員
 初診:平成2年2月21日
 家族歴:母にアレルギー性鼻炎、父方祖母に喘息
 既往歴:特記すべきことなし
 現病歴:姉妹とも、ほぼ同時期より乳児期から顔面、四肢関節部に湿疹が出現した。その後軽快していたが、小学校3年ころより、体幹にかさつきが現れ、徐々に全身に拡大した。
 環境:姉は主にパソコンを扱っているが、妹は紙幣、手形を多数取り扱うため、就職後手湿疹が出現した。どちらも家事はほとんどしない。
 現症:きわめてよく似ており、見分けるのは困難。いずれも眼周囲に著明な紅斑がみられ、頸部、背部、肘窩には紅斑を伴って小丘疹が多発している。
 検査所見:(Table 1) 血清IgE値は姉が785 IU/ml、妹が230 IU/mlであり、RAST値はダニ、花粉、猫などいずれも陰性だが、カンジダのみ姉が陽性(1.43)、妹が陰性(0.20)であった。皮内テストは妹のみ大豆が陽性。

第3組
 患者:20歳、女性、1卵生、大学生
 初診:平成元年8月15日
 家族歴:母にアレルギー性鼻炎、父方祖父に喘息
 既往歴:姉に腹膜炎
 現病歴:生直後から頭部に湿疹が出現した。その後、姉妹ともほぼ全身に拡大した。18歳過ぎて、さらに悪化した。どちらも毎年5月ころ増悪する傾向がある。
 環境:一緒に育てられ、ずっと同じ中学、高高、大学に通学している。なお、高校時代、姉は文化部、妹は卓球部に所属。
 現症:ほとんど同じ顔貌をしている。姉妹ともほぼ同程度に、顔面、体幹上部、肘窩、膝窩に色素沈着を伴う紅斑がみられる。
 検査所見:(Table 1) 血清IgE値は姉が2000 IU/ml、妹が2352 IU/mlでほぼ同じであった。RAST値は、姉のDpが陽性(1.11)、妹は陰性(0.14)であり、小麦、大豆のRAST値も姉のみ軽度陽性。一方、カモガヤ、スギのRAST値は妹の方が高値を示していた。皮内テストは、姉のみHD陽性、妹のみスギ陽性であった。

考案

 患者のアトピー性皮膚炎の既往歴をみると、第1組で両者とも喘息とアレルギー性結膜炎があり、第2組と第3組にはアトピー性皮膚炎以外にはなく、3組とも一致していた。
 また、3組とも乳児期ほぼ同時に、同じような発疹で発症していた。

 患者の発疹の分布、形態を比較してみると、第1組では兄弟ともほぼ全身に著明な掻爬痕と血痂を伴った紅斑が認められ、特に眼周囲に著明で、ほとんど同じ湿疹の分布、形態を呈していた。
 第2組では、姉妹とも、眼周囲、頸部、肘窩などに同様な紅斑、丘疹が多発し、第3組でも色素沈着を伴ってほぼ同様な分布で紅斑が多発していた。
 第2組の妹で手指の湿疹が著明であったが、これは銀行に勤め始めて、紙幣や手形などを多数扱うようになり出現したとのことで、パソコン業務に携わっている姉には見られないことから、アトピー性皮膚炎の手湿疹外的要因によることを示している。

 患者のRAST値を比較すると、1卵生の第1組において、HD、Df、Dp、スギに著明な差違が認められるのに対して、卵白と猫毛ではかなり一致したところも見られた。
 住居はフローリングをしており、兄弟とも同じ部屋で起居し、同じ幼稚園に通い、ほとんど一緒に生活、行動している。
 もちろん5歳という年齢から、兄でも今後RAST値が上昇する可能性はあるが、1卵生でありながら著明な差違が認められることから、ダニRAST値は遺伝的要因以外に何らかの後天的要因が関係していることを示唆している。
 また、兄は卵がきらいで全く食べず、弟は好きでよく食べ、卵白RAST値に差がないのは奇妙といえるが、お菓子などの卵の加工品は同じように摂取しており、RAST値上昇にかかわる上で十分な抗原量が体内に侵入しているため、RAST値に差違が生じなかったとも解釈できる。
 その意味で食事アレルゲンが原因の場合、それらの加工品まで制限する必要があると考えられる。
 一方、卵を食べることで、卵に対する免疫寛容(トレランス)を誘導するには、卵の現物を食べなくても、卵の加工品だけでも十分同等の効果が得られることも示している。
 同様に、猫毛RAST値がほぼ一致しているのは、まさに兄弟が常に行動を共にしている結果であり、これらに対して特異的IgE抗体を生成するか否かについては遺伝的要因に依っていることを示唆している。

 第2組のRAST値は、姉妹でほとんど一致していたが、カンジダにおいてかなりの差が認められた。
 第3組でも、Dp、小麦、大豆、ブタクサのRAST値は明らかに姉で高く、カモガヤは妹に高値を示していた。
 以上3組について、RASTスコアが2以上異なるものは、検査した範囲において、第1組で4項目、第2組で1項目、第3組で5項目に認められた。
 皮内テストは、第1組でカモガヤとスギ、第2組で大豆、第3組でハウスダストとスギにおいて異なっていた。
 一方、血清IgE値は第1組で約2倍、第2組で約3倍の差があったが、第3組ではほとんど差がなく、全体として、RAST値に比べて明らかに差が少なかった。

 今回の双子を1卵生と判断したのは、母親の主張と顔貌によったが、正確な診断を行うためには、HLA、血液型など詳細な検査が必要と思われる。
 しかし、これまでの双子調査の報告によると、"When growing up were you as alike as two peas in a pod or of a family likeness only?" という質問によって95%以上の信頼度でそれを判定できるとしている。

 今回報告した3組の1卵生を見る限り、発症時期、発症の分布と形態、アトピー性皮膚炎の既往歴、血清IgE値には双子間で差はなかったが、特定のアレルゲンに対するRAST値と皮内テストでは明らかに差が認められた。
 このことは、アトピー性皮膚炎の発症や血清IgE値は遺伝的ら規定されているのに対して、特異抗体の産生は環境的要因に大きく支配されていると解釈できる。

 アトピー性皮膚炎の双子を対象として血清IgE値やRAST値を比較した報告はなかったが、喘息患者あるいは疾患に関係なく双子についてそれらを調べた報告は2、3見受けられた。
 Bazaralらは、双子の登録から選んだ1卵生54組、2卵生39組の血清IgE値を比較し、1卵生において双子間の差が有意に少なかったことから、血清IgE値遺伝的要因によると述べている。
 また、Wuthrichらは、アトピー歴のある双生児(1卵生30組、2卵生20組)に血清IgE値とRAST値の測定、皮内テストを施行し、血清IgE値は1卵生で有意に相関していたが、RAST値と皮内テストは1卵生と2卵生の間で差がなく、IgE産生は遺伝的に決定されているが、その特異性は主に環境によって支配されていると主張している。
 Hoopらは、喘息の既往のある1卵生61組、2卵生46組の血清IgE値と皮内テストを比較して、1卵生双生児の方が有意に相関性が高かったと報告している。
 しかし、性が同じ2卵生のみ選んで皮内テストを比べると、有意差はなく、特定のアレルゲンに対する反応性を決定するものは環境的要因であると結論している。
 Blumenthalらは、一緒に育て上げられた1卵生の喘息・アレルギー性鼻炎患者と別々に育てられた1卵生患者を比較して、疾患の一致率と血清IgE値において有意な差違は認められず、これらの遺伝的要因の重要性を強調している。

 アトピー疾患の血清IgE値に遺伝的要因が関係していることは多数報告されているが、遺伝様式については、優性、劣性遺伝の両方の報告がある。

 いずれにせよ、双子において、正確な統計解析を行うためには、我が国でも双子の登録を施行し、さらに症例数を増やす必要があると考えられる。
 また治療内容を含めて、長期に双子を観察して解析することも、病因だけでなく今後の治療法の評価に寄与すると考えられる。

文献(省略)


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