11.アトピー性皮膚炎に罹患した経験がある皮膚科医のステロイドに対する意見


遠藤薫他:アトピー性皮膚炎に罹患した経験がある皮膚科医のステロイドに対する意見。皮膚、41 Suppl21、37-42、1999。

要旨


 アトピー性皮膚炎の罹患歴がある皮膚科医31名にステロイドに関係したアンケート調査を行った。
 ステロイドを忌避する4名を除いた、27名について結果を分析した。
 悪化時においてもステロイド外用剤を使用しなかった患者が、15名いた。
 そのうち13名は、やはりステロイドを外用するのがよいと回答していた。
 18名は免疫抑制剤の他にも有効な治療法があると回答していたが、23名の患者はステロイドによる治療がよいと答えていた。
 しかし、12名は、外用していると徐々に効かなくなること、14名は、難治化の要因としてステロイドの関与の可能性を指摘していた。
 それでも、24名は、自分の子供に使用すると回答し、皮疹が悪化したときの苦痛に比べると外用した方がよいと、結論していた。

キーワード:アトピー性皮膚炎、ステロイド、治療、アンケート



はじめに

 これまでアトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤の是非については様々な意見があり、患者に混乱を招く一因ともなっている。
 ステロイド外用剤の短期的な有用性は大部分の皮膚科医及び患者ともはっきりと認めている。
 しかし、長期的な視野に基づいてその有用性や問題点を判定する場合、二重盲検法などが困難なところもあり、適当な方法がなく、皮膚科医や患者の間でも意見が錯綜しているのが現状である。
 今回、皮膚科医であり同時にアトピー性皮膚炎患者であればそれを客観的に判定できる考え、アンケート調査を実施した。


アンケートの方法

@.対象の選択方法


 第97回日本皮膚科学会総会及び第28回皮膚アレルギー学会において、出席していた大学関係者に該当する皮膚科医の有無を尋ね、出席していた本人に直接手渡すか、または大学関係者にアンケートを委託した。
 患者自身あるいは関係者に手渡したアンケート数は52部で、そのうち回収数は31部であり、回収率は59.6%であった。

A.アンケートの内容

 アンケートには、患者の氏名、年齢、性別、所属大学名、アレルギーの家族歴・既往歴・合併症、アトピー性皮膚炎の発症年齢、経過中ほぼ軽快していれば再発年齢を記載し、さらに最も悪化した時期の症状と現在の症状をそれぞれ全身と顔面に分けて6段階(0〜5)で評価させた。
 また、参考資料として、IgE、LDH、好酸球数を調査した。


 表1 ステロイドに関する質問項目
 経過に関係したもの
(1).以前よりずっと皮膚症状をステロイドの外用でコントロールしている。
(2).悪化時、ステロイドの内服をしたことがある。
(3).悪化しても、ステロイドを使わなかったことがある。
(4).最近はステロイドをやめている。
 
ステロイドの効果に関係したもの
(5).症状をコントロールできるものは、ステロイドなどの免疫抑制剤しかない。
(6).症状のコントロールは、まず強いステロイドで皮疹を抑えて、軽いステロイドに変えるのがよい。
  ステロイドの問題点に関係したもの
(7).ステロイドの外用は最初はよく効くが、だんだん効かなくなる傾向がある。
(8).アトピー性皮膚炎の難治化は、ステロイドの外用も関係している。
  ステロイドに対する姿勢
(9).自分の子供の湿疹には、できればステロイドは使いたくない。

 ステロイド外用剤に関する質問項目は、回収率をあげるためにできるだけ簡単なものに絞り込み、表1にある9項目に限定した。
 なお、質問項目は、臨床経過と関連したもの(項目1〜4)、ステロイド外用剤の効果に関連したもの(項目5〜6)、ステロイド外用剤の問題点に関連したもの(項目7〜8)、ステロイド外用剤に対する基本姿勢に関連したもの(項目9)より構成されている。
 欄外の追記として、「患者自身の経過からアトピー性皮膚炎の治療はどのようにするのが最も望ましいか」という質問をもうけ、自由に記載してもらった。

結果

 
表2に対象患者の概要とステロイド外用剤に関するアンケート結果をまとめた。
 これをもとにして以下のような分析を行った。
 なお、検査データについては半数以上が未記入であり、表には記載しなかった。

表2 対象患者とアンケート結果のまとめ
 
       年齢    悪化時  
症状 
 現在の 
 症状 
ステロイドに関する質問項目
 患者  年齢
 (歳)
性  発症
(歳)
再発
(歳)
最悪
(歳)
   全身  顔  全身  顔  (1) (2)  (3)  (4)  (5)  (6)   (7)  (8)  (9)
 A群                   
 1  30  m  0    26  2  3  2  1  ×  ×  ◯  ×  ×  ?  ×  ×  ×
 2  39  m  18  30  20  2  1  1  0  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯  ◯  ×  ×
 3  27  f  25    26  2  3  1  0  ×  ×  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯  ×
 4  29  f  0    19  2  5  3  1  ◯  ×  ◯  ×  ◯  ◯  ◯  ◯  ×
 5  24  m  3    22  2  5  1  2  ◯  ×  ×  ×  ◯  ◯  ◯  ◯  ×
 6  28  f  5    20  2  1  1  0  ×  ×  ×  ◯  ×  ◯  ?  ?  ×
 7  26  f  20    20  3  2  1  1  ◯  ◯  ◯  ×  ◯  ×  ×  ×
 8  26  f  3    4  3  2  1  0  ◯  ×  ×  ×  ×  ◯  ×  ×  ×
 9  32  m  15    17  3  3  1  0  ×  ×  ×  ×  ◯  ◯  ×  ×  ×
 10  26  m  15    20  3  3  1  1  ×  ×  ◯  ◯  ×  ◯  ◯  ×  ×
 11  34  f  0  26  29  3  2  1  1  ×  ◯  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ×  ×
 12  31  m  25    30  3  3  1  1  ◯  ◯  ×  ×  ×  ×  ◯  ◯  ×
 13  31  f  6    6  3  0  1  0  ×  ◯  ◯  ×  ◯  ◯  ?  ◯  ×
 14  28  m  1    6  4  3  2  2  ◯  ×  ◯  ×  ×  ◯  ×  ×  ×
 15  26  f  0  18  18  4  2  1  1  ×  ×  ×  ×  ×  ◯  ×  ◯  ×
 16  28  m  4    18  4  3  3  4 × × ×  ◯  ×
 17  30  f  0    17  4  5  1  1 × × ?  ◯  ×
 18  38  m  2    18  5  5  2  2 × × × × × ×  ×  ×
 19  29  m  16    23  5  5  3  3 × ×  ×  ×
 20  32  m  3    24  5  4  0  0 × ×  ×  ×
 21  29  m  3    26  5  5  2  4 × × × ×  ◯  ×
 22  30  m  16    16  5  4  2  1 × × × ×  ◯  ×
 23  27  f  5  14  14  5  5  1  1 × × × ×  ◯  ×
 24  36  m  1    4  5  5  1  1 × × × ×  ?  ×
 B群                   
 25  31  f  0  28  28  1  1  0  0  ×  ×  ◯  ◯  ×  ◯  ×  ◯  ◯
 26  24  m  6  13  23  3  5  2  4  ◯  ◯  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯  ◯
 27  26  f  0  20  20  5  0  1  1  ×  ×  ×  ×  ◯  ×  ◯  ◯  ◯
 C群                   
 28  32  m  9    25  2  3  1 1  ×  ×  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯
 29  51  m  0  12  0  2  5  0  0  ×  ×  ◯  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯
 30  26  m  1    18  5  5  1  2  ×  ◯  ◯  ◯  ×  ×  ◯  ◯  ◯
 31  58  m  35    55  5  0  1  0  ×  ×  ◯  ◯  ×  ?  ?  ◯  ◯
注:◯はyes、×はnoを示す。 


@.対象患者の解析

 
回答が得られたアトピー性皮膚炎に罹患した経験がある皮膚科医31名は、男19名、女12名、24歳から58歳で、平均年齢31.1歳であった。
 年齢分布は、30歳未満が16名、30〜39歳が13名、40歳以上が2名であった。
 アレルギーの既往歴・合併症は、気管支喘息が9名、アレルギー性鼻炎が11名、アレルギー性結膜炎が4名、蕁麻疹が4名に見られた。
 アレルギーの家族歴をみると、湿疹があるとしたものが14名おり、22名でいずれかのアレルギー疾患が父母、兄弟または子供に認められた。


 表3 発症年齢 
 0   8
 1〜4   9
 5〜9   5
 10〜19   5
 20歳〜   4名 

 
発症年齢は、0歳時が8名、1〜4歳が9名と乳幼児期が多く、20歳を越えて初発した患者が4名いた(表3)。
 最も悪化した年齢は、10歳代が9名、20歳代が15名と比較的成人期に悪化した患者が多く見られた(表4)。

 表4 最も悪化した年齢 
 0〜9   5
 10〜19   9
 20〜29   15
 30歳〜   2名 

 
悪化時の症状は、全身では軽症2が8名、中等症3が8名、重症以上4〜5が14名と相当数が重症化しており、顔面についても、重症以上が12名と多くの患者で重症化していたと考えられた(表5)。
 一方、現在の症状を見ると、全身的には微症以下が22名と多数を占め、重症以上は一人もなく、また、顔面ついても同様に23名で微症以下であったが、3名は重症に含まれていた。 

 表5 悪化時及び現在の症状

  悪化時の症状   現在の症状 
 重症度  全身  顔  全身  顔
 0  3  3  1  0
 1  1  3  19  13
 2  8  4  6  4
 3  8  8  3  1
 4  4  2    3名
 5  10  11名    

A.アンケートの結果

 質問項目の回答を総合的に分析し、特に項目(9)の回答と追加記載した内容から、患者を次の3群に分類した。
A群(湿疹に対してステロイドを外用するのがよいと考える)・・・24名
B群(できればステロイドを外用しない方がよいと考える)・・・・ 3名
C群(ステロイドの外用を完全に否定または忌避)・・・・・・・・ 4名
 C群は患者の中でも特別なグループと考え、皮膚科医の一般的な意見として、以下はA群とB群を合わせて解析した(表6)。

 表6 A群とB群に分類される患者(27名)のアンケート結果のまとめ

  yesの数 
 質問項目  A群  B群  A+B群
 (1)ずっと外用  14  1  15
 (2)内服経験  6  1  7
 (3)使用せず  13  2  15
 (4)やめている  7  1  8
 (5)他にない  8  1  9
 (6)外用がよい  21  2  23
 (7)効かなくなる  10  2  12
 (8)難治化  11  3  14
 (9)自分の子供  0  3  3名


 
ただ患者をさらに細かく分けて統計的に解析するには、調査した患者数が十分ではなかった。
 項目(1)のステロイド外用剤をずっと外用しているかどうかの質問は、皮疹の無いときには外用していないことも含まれるために実数を反映していない可能性がある。
 項目(3)はある意味で項目(1)の裏返しになっている。
 項目(3)の悪化時においてもステロイド外用剤を使わなかったことがあるということは、ステロイドに対する疑念を表しており、約半数(15名)は決して少なくない(表7)。
 この15名のうち13名が項目(6)に賛成していることからみると、皮疹の悪化時はやはりステロイドを外用するのがよいということを示している。

 表7 ステロイドの中止経験の有無とアンケート結果

     yesの数
 ステロイド外用中止経験  患者数  (5)  (6)  (7)  (8)
 あり  15  4  13  6  8
 なし  12  5  12  6  6名

 そんな彼らも、6名は項目(7)に、8名は項目(8)にyesと回答しており、ステロイド外用剤に対する複雑な心理を如実に示している。

 ステロイド外用剤の中止経験のない12名は10名が項目(6)に賛成しているが、一方で6名が項目(7)に、6名が項目(8)にも賛成している。
 ステロイド外用剤の中止経験がある患者のうち4名が項目(5)に賛成しているのに対して、ステロイド外用剤の中止経験のない患者では5名が項目(5)に賛成しており、前者は後者に比してステロイド以外のものも有効と考えている傾向にあるが、(5)から(8)の項目に対する回答には有意差は見られない。

 ステロイドの内服は必ずしも重症患者で経験しているとは限らないようである。
 重症患者で内服した場合(3例)、いずれも現在も皮疹が継続しており、良好な経過になっているとは言えない。
 ただ、内服経験者7名のうち6名はステロイド外用剤の中止を経験しており、中止後の著明な増悪がステロイドの内服につながった可能性を示唆している。
 最近はステロイドをやめているという項目(4)は、項目(3)がnoであれば症状改善による外用中止例と考えられる(3例)。
 一方、項目(3)がyesのときは、中止後の悪化を経験した患者と思われるが(5例)、全員項目(6)にyesと回答していることから、結局はステロイド外用剤を再開することで略治に至ったと思われる。

 項目(5)は、ステロイドなどの免疫抑制剤以外にもアトピー性皮膚炎に有効な治療があるかどうか質問したものである。
 18名があると回答し、欄外の書き込みをまとめると、スキンケア・ストレス改善・環境改善などを上げている患者が多い。
 項目(5)(6)の両方にyesと回答している8名を見ると、3名は項目(7)(8)の両方に否定的であるが、3名は項目(7)(8)のいずれかに、2名は項目(7)(8)の両方にyesと回答しており、患者と皮膚科医両者の複雑な心境を反映している。
 しかし、患者あるいは皮膚科医の立場から言えば、アトピー性皮膚炎の治療はステロイドを外用するのがよいことは、項目(6)で大多数の患者(27名中23名)が賛成していることから明らかである。

 一方で、患者として約半数(12名)が項目(7)の外用しているうちに徐々に効かなくなると回答し、同様に皮膚科医としては約半数(14名)が項目(8)のアトピー性皮膚炎の難治化にステロイドも関与していると考えているのも事実である。
 表8は患者の症状でそれぞれの回答を分析したものである。
 悪化時及び現在の症状から結論に有意差はなく、少なくとも今回の調査では重症度とは関係ないと思われる。

 表8 悪化時及び現在の症状からみたアンケート結果の分析
   悪化時症状  現在の症状
   1〜3  4〜5  0〜1  2〜3
 (5)他にない  5  4  6  3
 (7)効かなくなる  8  4  9  3
 (8)難治化  7  7  9  5
 患者数  15  12  18  9名


かんがえ

 
もし必要なら自分の子供にもステロイドを使うという項目(9)に対する賛成の多さは、結果として皮疹が悪化したときの苦痛に比べると、ステロイド外用剤を使用した方がよいという現実的な結論でもある。
 臨床的には、ステロイド外用剤はできれば使いたくないが、仕方なく使用しているということを患者からしばしば訴えられる。
 今回の結果を見る限り、皮膚科医も患者として同じジレンマを抱いていることを示している。

 長期的な視野から見れば、患者の日常生活を維持する上でステロイドは有効な手段であるが、外用していると効果が低下したり、かえって難治化すると考えている皮膚科医がいるのも確かである。
 今回の調査では、その原因が基剤を含めた外用剤の接触皮膚炎によるものなのか、それともステロイド外用剤の作用に付随するものなのか詳細は明らかではない。

 ステロイド外用剤についてアトピー性皮膚炎をもった皮膚科医に意見を求めた報告は、文献を見る限りこれまで報告されていない。
 ただアンケートを簡略化した割には回収率が悪く、さらに多くの対象を選んでもっと詳細な内容を調査すれば、異なった結果が得られた可能性がある。



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