環境の出生率に対する影響について

 出生率については、「一人の女性が一生の間に産む子供の数の平均」を合計特殊出生率と定義され、これが一般に用いられています。

 他に、総再生産率は、「一人女性が一生に産む女児の平均数」です。
 純再生産率は、「一人の女性が次世代の母親を生む平均数」を表しています。
 これは、総再生産率に女性の年齢別生残数を考慮した数です。
 この値が1を超えると人口が増加し、1を下回ると人口が減少します。

 戦後のベビーブームのときは、合計特殊出生率は4.5を超えていました。
 しかし、年とともに低下し、2005年には1.26にまで減少しました。
 2009年は1.37と少し持ち直しています。

 これまで、これらの低下は主として、晩婚化や女性の職場進出などのライフスタイルの変化によるものと説明されてきました。

 一方、合計特殊出生率を下げる要因の一つに不妊症の増加の可能性があります。

 不妊症は、女性側に問題がある不妊症と不育症と、男性側に問題がある男性不妊症に分けられます。

 日本では、「避妊していないにもかかわらず2年以上妊娠しない」とき、不妊症と定義されています。
 また、「妊娠しても流産などで出産にまで到達しない」場合、不育症と定義されています。

 不妊症は普通10%程度の夫婦に認められます。
 女性側と男性側に原因があるのはそれぞれ40%程度、両者にあるのが15%、原因不明が5%程度とされています。

 女性不妊症・不育症や男性不妊症の原因については他に記載されていますので、そちらを参考にして下さい。

 ここでは、日本のあちこちの都市の出生率を調べ、環境との関係を検討したいと思います。

方法

 現在、手元にある「統計でみる市区町村のすがた 2003版」(総務省統計局 5200円)を基礎資料として、大都市と地方都市の出生率を比較します。
 実際は、各都市での合計特殊出生率が報告されていればよいのですが、捜しても見つかりませんでした。(ちなみに、2003年版を選んだのは、2011年の震災・原発災害以後のものは、それの影響が加味される可能性があると考えたからです。)

 仕方なく、適齢期の女性数のデータがあればと考えましたが、それも分かりません。
 ということで、各都市ごとに、多少年齢・性別構成に差があるかもしれませんが、生産年齢出生率を(一年間の出生数)÷(15〜64歳の人口(生産年齢人口))としました。
 また、結婚すれば必ず子供を希望するとは限りませんし、結婚しなくても子供ができることはあります。
 それでも、(一年間の出生数)÷(一年間の婚姻数)を婚姻出生率としました。

 ある程度の人口がなければ誤差が出ることも考え、15〜64歳の人口が20万人以上の都市や県を無作為に選択しました。

結果

 以下の表にまとめました。
 分かりやすいように、出生率が1.30未満のものを赤字で記載し、1.50を超えるものを緑字で示しました。


 日本各地の生産年齢出生率と婚姻出生率
 
 市町村  A
出生数
 B
15〜64歳の人口
(生産年齢人口)
 A/B
生産年齢
出生率(%)
 D
婚姻数
 A/D
婚姻出生率
東京の
上水道の水源 
 新宿区  1724  212381  0.81  2215  0.78  朝霞・三郷・三園系
 中野区  1978  231497  0.85  2295  0.86 朝霞・三郷・三園系 
 世田谷区  6076  584733  1.04  6338  0.96 朝霞・三郷・三園系 
 大田区  5463  470708  1.16  4881  1.12 小作?・長沢系 
 練馬区  6102  467346  1.30  4996  1.22  東村山・三郷・三園系
 江戸川区  7020  450644  1.56  5416  1.30 金町・三郷系 
 八王子市  4534  388821  1.17  2928  1.55 小作・東村山系 
 千葉市  8503  647283  1.31  6116  1.39  
 旭川市  2932  244817  1.20  2268  1.29  
 札幌市  15332  1286323  1.19  12642  1.21  
 盛岡市  2802  199462  1.40  1836  1.53  
 仙台市  10232  727783  1.41  7499  1.36  
 秋田市  2724  216200  1.26  1906  1.43  
 山形市  2411  167751  1.44  1507  1.60  
 郡山市  3568  227065  1.57  2327  1.53  
 福島市  2949  192903  1.53  1850  1.59  
 宇都宮市  4803  311665  1.54  3414  1.41  
 前橋市  2842  190894  1.49  1794  1.58  
 川越市  2922  241036  1.21  2112  1.38  
 所沢市  3309  237836  1.39  2326  1.42  
 横浜市  33598  2463151  1.36  25241  1.33  
 川崎市  13542  923655  1.47  10980  1.23  
 相模原市  6315  448835  1.41  4384  1.44  
 新潟市  4853  362148  1.34  3192  1.52  
 富山市  3180  219533  1.45  2080  1.53  
 金沢市  4758  314133  1.51  3051  1.56  
 長野市  3775  237932  1.59  2479  1.52  
 岐阜市  3969  274011  1.45  2591  1.53  
静岡市  4395  320492  1.37  3016  1.46  
 名古屋市  20760  1506882  1.38  14844  1.40  
 豊橋市  3846  249901  1.54  2273  1.69  
 四日市市  3133  198760  1.58  2120  1.48  
 大津市  2833  198572  1.43  1861  1.52  
 京都市  13002  1015509  1.28  9287  1.40  
 大阪市  24136  1822803  1.32  19221  1.26  
 堺市  7912  560265  1.41  5366  1.47  
 高槻市  3541  255366  1.39  2450  1.41  
 東大阪市  5078  366297  1.39  3327  1.53  
 神戸市  13160  1033013  1.27  9508  1.38  
 姫路市  5537  325136  1.70  3377  1.64  
 尼崎市  4733  326950  1.45  3386  1.40  
 奈良市  3443  255724  1.35  2101  1.64  
 和歌山市  3667  258783  1.42  2391  1.53  
 島根県  6522  460103  1.42  3772  1.73  
 鳥取県  5645  383921  1.47  3366  1.68  
 岡山市  6969  426632  1.63  4274  1.63  
 倉敷市  4867  292205  1.67  2854  1.71  
 広島市  11734  791617  1.48  7965  1.47  
 福山市  4054  256756  1.58  2505  1.62  
 高松市  3677  223684  1.64  2375  1.55  
 松山市  4704  325336  1.45  3081  1.53  
 高知市  3337  221951  1.50  2082  1.60  
 北九州市  9172  675675  1.36  6090  1.51  
 福岡市  13133  967799  1.36  9589  1.37  
 長崎市  3631  280214  1.30  2232  1.63  
 熊本市  7085  449211  1.58  4508  1.57  
 大分市  4682  302431  1.55  2972  1.58  
 宮崎県  11037  740401  1.49  6513  1.69  
 鹿児島県  16272  1101401  1.48  9585  1.70  
 沖縄県  16773  861826  1.95  9077  1.85  

 まず、生産年齢出生率と婚姻出生率が、ほとんど同じ数値になることに驚かされます。
 地方では、年齢構成が高齢傾向にあるために、当然、生産年齢出生率の方が婚姻出生率より低くなっています。
 婚外子が大都市の方が多いことが予想され、婚姻出生率が低くなるのも仕方がないかもしれません。

 そんなことを考慮しても、東京などの大都市の都区部の出生率は、なんとまあ低くなっていることでしょう。
 「都区内に住んでいる女性は、ピルを内服している割合が高いから」
 「新宿区や中野区のカップルは、子供が欲しくないからだ」
 「都区内の夫婦は2人以上子供をつくらないからだ」とか、
確かにいろんな理由が想定されます。

 そうはいうものの、不妊専門クリニックの広告を見ると、東京などの大都市に実に多数あります。
 江戸川区と新宿区・中野区はどちらも同じ東京都民です。

 参考のために、東京都民の上水道の水源を示しました。
 朝霞と三園は荒川系、三郷と金町は江戸川・利根川系、東村山と小作りは主に多摩川系です。
 東京の都区によって出生率が低くなった要因を、住環境に求めるのはいくらか無理があるかもかもしれませんが、一度疫学的に検討が必要かもしれません。

 北海道や東北の出生率が四国や九州より低いのは何故なのでしょうか。
 冬に雪や寒さに閉ざされて、室内に閉じ込められる時間が長いせいかもしれません。
 出稼ぎしているせいとも考えられます。
 それでも「旭川市はどうしたの」と言ってみたくなります。

 福島市や郡山市のデータは、今後原発事故の影響を調べるための基礎データになります。

 放射線の影響といえば、長崎市や広島市の出生率が低くなっているの何故なのでしょうか。
 長崎市の市民は、
 「生産年齢での高齢者が大分市や熊本市より多いから」、
 「子供ができてから結婚するカップルが多いから」で、
プルトニウムの影響ではないと説明することはできます。

 一方、広島市と比較的近い福山市や岡山市と比較しても、広島市の出生率も低下しています。
 広島市も福岡市や北九州市と同じように、結局は大都市の一つなのかもしれませんが。

 それにしても、沖縄の出生率の結果は実に立派です。
 子供を産みたいのなら、下手な不妊治療をするよりは、沖縄に引っ越しするのが一番よい方法です。

 東京都民は、東京都区内に住むのは止めて、地方都市に引っ越すか、少なくとも江戸川区に引っ越すのがよいかもしれません。
 何故かよく分かりませんが、子作りするには、姫路、岡山、倉敷もいいところです。


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