Clinical implication of house dust mite patch test in atopic dermatitis (short report)
アトピー性皮膚炎におけるダニハッチテストの臨床評価


K. Endo, T. Fukuzumi, J Adachi, M. Kojima, T. Aoki
Department of Dermatolgy, Habikino Hospital of Osaka Prefecture, Habikino 3-7-1, Habikinosi, Osaka Prefecture, Japan
Environ Dermatol 1:136-140,1994

 Abstract
We studied the significance of patch testing with house dust mite (Dermatophagoides pteronyssimus) antigen in atopic dermatitis.
The 289 in-patiants (152 male, 137 female) included 89 positive reactions (30.8%) to the mite patch test.
To these patients we distributed a questionnaire to determine if they had taken various steps to remove house hust mites.
Forty seven percent answered that they had experienced amelioration of the skin symptoms after house dust mites removal efforts, but there was no significant relationship between these efforts and the patch test results.
The amelioration upon mite removal was related to a history of itchness in a dusty environment.
Therefore , the possibility was suggested that house dust mite antigen may have aggravating effects as an inhalant rather than as a contactant.

アトピー性皮膚炎における家塵ダニ(ヤケヒョウヒダニ)の臨床的意義を検証した。
アトピー性皮膚炎患者289名(男152名、女137名)において、89名(30.8%)でダニパッチテストが陽性であった。
これらの患者にアンケートで、ダニを除くいろんな試みをしているか尋ねた。
47%の患者で、家塵ダニを減らすと皮膚症状が改善すると答えた。
しかし、これらの結果とパッチテスト結果の間には相関はみられなかった。
ダニを除いてよくなった患者は、ほこりの多い環境でかゆくなった経験があった。
従って、家塵ダニは、接触抗原よりもむしろ吸入抗原として、悪化の原因になっていると考えられる。


 ダニを抗原とするパッチテストはこれまで多数の施設で行われ、アトピー性皮膚炎において有意に陽性率が高いことが明らかになっている。
 一方、ほこりっぽい環境に引っ越してアトピー性皮膚炎の臨床症状が悪化したり、ダニを排除する様々な環境対策によって改善することも、真偽はともかくしばしば言われていることである。
 ただ、これらの論拠とするものが、これまではダニやハウスダストに対するRASTや皮内テストによることが多かった。
 今回、われわれは、患者にダニパッチテストを行い、その結果が生活指導する上で参考になるか検討し、その臨床的有用性を評価した。

対象と方法

 平成元年5月より5年8月までの期間に大阪府立羽曳野病院皮膚科に入院し、ヤケヒョウヒダニのパッチテストを施行したアトピー性皮膚炎患者289名(男152名、女137名、平均年齢20.5歳)について、喘息・鼻炎の既往の有無、全身及び顔面の皮疹の重症度、血清IgE値、DP RAST値、非ステロイド外用剤パッチテスト結果を分析した。
 さらにこれらの患者のうちで、退院後約1年以上過ぎた平成4年11月までの入院患者281名(男149名、女132名)に対して、Table1 のアンケートを郵送又は手渡して施行した。

 Table 1. patient questionnaire
 1. ダニの多い環境に住んでいて湿疹がひどくなったと思いますか(はい、いいえ)
 2.ダニ、ほこりの多いところにいるとかゆくなりますか。(はい、いいえ)
 3. 当科に入院前から十分なダニ対策を行っていましたか。(はい、いいえ)
 4. 退院後、ダニ対策を行いましたか。(はい、いいえ)
 5. これまでダニ対策をされておられるなら、その内容をお教え下さい。(はい、いいえ)
 6. ダニ対策されたかたにおたずねします。ダニ対策によって湿疹はどうなりましたか。(よくなった、いくらかよくなった、変わらない、いくらか悪くなった、悪くなった)

 ダニ抗原によるパッチテストは、大阪府立公衆衛生研究所より譲り受け当科で飼育しているヤケヒョウヒダニを用いて下記の方法で行った。
 1. ダニ as is
 2. 10% ダニとワセリンの混合
 3. 10%エサとワセリンの混合

(注:エサは実験動物用飼料粉末と乾燥酵母の1:1 混合)
 パッチテストは患者背部の皮疹のない皮膚又は皮疹が軽快した皮膚に行った。
 パッチテストの判定はICDRG基準に従い、3 が陰性で、1 と2 の両方が陽性のものを陽性と判定した。
 なお、今回は陽性又は陰性の判定不能の患者は対象から除外した。

結果

 ダニパッチテストは、89名(30.8%)で陽性であり、男女で有意差がなかった(Table2)。

 Table 2. Results of patch test with house dust mite allergen
  
   male  female  total 
  Patch test result   +  -  +  -  +  -
 age     〜9歳  8   4   4  6  12*  10
 10〜19  17  47  14   43   31  90
 20〜29  22   42   20  41  42  83
 30歳〜  1  11  3  6  4  17
 Total  48  104  41  96  89  200名
 (%)  (31.6)    (29.9)    (30.8)  
 * : p<0.05

 年齢的には、10歳未満の子供で陽性が多かった(p<0.05)。
 その他の年齢群間で有意差はなかった。

 Table 3 にダニパッチテストの結果と各種要因の関係を示した。
 

 Table 3. Comparison of patch test with house dust mite allergen to other factors. 
  
 Patch test result    +  -
 History of asthma and/or rhinitis   positive  58**  96
 negative  31  104
 Severity of the total skin symptom     1  1  16
 2  33  52
 3  32  73
 4  23  59
 Severity of the facial skin symptom    mild 22  49
 moderate 34  72
 severe 33  79
 Serum IgE (IU/ml)     〜100 1  9
 100〜1000 13  40
 1000〜10000 48  118
 10000〜 27**  33
 RAST score for Dp    0〜1 1  35
 2〜3 9  46
 4〜 79**  119
 Patch test with ointments   + 21**  14
 -  55  141
 ** : p<0.01

 喘息・鼻炎の既往のある患者に有意に陽性が多かった。
 皮疹の重症度に対しては、重症度1(軽症)で陰性が多く見られたが、それ以上の重症度2〜4については有意差はなかった。
 ダニパッチテスト陽性率と顔面の重症度との間には有意な相関はなかった。
 血清IgE値については、100 IU/ml 未満の患者で陰性が多く見られたが、100 IU/ml 以上では有意差はなかった。
 Dp-RAST スコアに関しては、スコア4以上で有意に陽性率が高かった。
 また外用剤のパッチテスト陽性患者において、ダニパッチテスト陽性が有意に多かった。

 ダニ対策に関するアンケートの結果をTable 4 に示した。

 Table 4. Methods of elimination of house dust mites and their results
   Results of elimination of house dust mites  
 Methods of elimnation  Improved  Slt. imp.  Unchanged  Slt. agg.  Aggravated  Total
 Drastic cleaning  9  28  46  1  0  84
 Change bedclothes  4  10  10  0  0  24
 Change flooring  5  10  15  0  0  31
 Others  0  4  2  0  1  6
 Total (%)  12 (10.2)  44 (37.3)  60 (50.8)  1 (0.8)  1 (0.8%)  118名
  Slt. imp. : Slightly improved,  Slt. agg. : Slightly aggravated

 159名より回答が得られ、住所不明22名を除いて、回収率は61.3%(男64.7%、女57.5%)であった。
 男30名、女11名の計41名は、入院前、退院後を通じて全くダニ対策を施行していなかった。
 ダニ対策を施行した118名の対策の内容は、重複を含めて、掃除を徹底した患者が84名と最も多く、ダニシーツ、ダニ布団などの寝具を変えた患者24名、フローリングにした患者が31名であった。
 ダニ対策の効果は、改善12名(10.2%)、やや改善44名(37.3%)と47.5%でやや改善以上の効果が認められた。

 ダニ対策の効果とダニパッチテストの結果の関係を検討したが、ダニパッチテスト陽性でダニ対策がやや改善以上の効果があったものが43.9%、ダニパッチテスト陰性で同様の効果があったものが49.4%であり、両者間で全く有意な差違はみられなかった(Table 5)。


 Table 5. Comparison between various factors
   Results of the elimination of house dust mites  
   Impoved  Slt. imp.  Unchanged  Slt. agg.  Aggravated  Total
 Patch test result     
 +  5(12.2)  13(31.7)  21(51.2)  1  1  41
 -  7(9.1)  31(40.3)  39(50.6)  0  0  77
 History of aggravation by the environment       
 yes  7(15.9)**  19(43.2)  17(38.6)  0  1  44
 no  4(6.3)  24(38.1)  34(54.0)  1  0  63
 Ichness in a dusty room       
 yes  9(9.8)  38(41.3)  44(47.8)  0  1  92
 no  2(11.1)  4(22.2)  11(61.1)  1  0  18
 RAST score for Dp       
   0〜1    1(9.1)  5(45.5)  5(45.5)  0  0  11
 2〜3  2(9.1)  10(45.5)  9(40.9)  0  1  22
 4〜  9(10.6)  29(34.1)  46(54.1)  1  0  85
 Severity of the total skin symptom       
 1  1(14.3)  2(28.6)  4(57.1)  0  0  7
 2  3(8.8)  18(52.9)*  13(38.2)  0  0  34
 3  4(9.3)  15(34.9)  22(51.2)  1  1  43
 4  4(11.8)  9(26.5)  21(61.8)  0  0  34
 History of athma and/or rhinitis       
 yes  6(9.4)  21(32.8)  37(57.8)  0  0  64
 no  6(11.5)  22(42.3)  22(42.3%)  1  1   52名 
 * : p<0.05, ** : p<0.01

 一方、ダニの多い環境で悪化した既往があるもの、ダニ、ほこりの多いところにいるとかゆくなると回答した患者において、ダニ対策が有効である傾向が認められた。

 またDp-RASTスコア、皮疹の重症度、喘息・鼻炎の既往の有無についても、ダニ対策の効果と明らかな有意な相関はみられなかった。

かんがえ

 一部のアトピー性皮膚炎患者において、ダニが何らかの悪化の要因を果たしていることは疑う余地はない。
 実際、現在様々なダニ除去の手段が講じられ、しばしば有効な結果が得られている。
 しかし、必ずしもそれがすべての患者で効果的とは限らないのも事実である。
 今回は、それらの患者を判別するため、いわば接触皮膚炎患者に対するように、ダニ抗原のパッチテスト陽性がダニ抗原による皮疹の証明となり、ダニ除去による皮疹の改善の指標となりうるか検討を加えた。
 ただアトピー性皮膚炎は、接触皮膚炎と異なり、治療を含め様々な要因が関与しており、単一の要因を取りだして判定するのはかなり困難なところがある。

 結果として、約50%の患者において、いろいろなダニ除去の試みによって多少とも皮疹の改善が得られた。
 しかし、これらの皮疹の改善の有無に対して、ダニ抗原のパッチテストに有意な差違はみられなかった。
 むしろ、ダニの多い環境で悪化したという既往のある患者やほこりっぽいところでかゆくなるという患者において、ダニ対策が有効である傾向がみられた。
 このことは、ダニ抗原が皮膚に直接接触皮膚炎を生じているのではなく、むしろ吸入抗原として即時型反応を惹起し、かゆみによる皮疹の悪化をもたらしていると解釈される。
 従って、DP-RAST値高値の患者でダニパッチテスト陽性が多かったのは、72時間後においても経皮侵入したダニ抗原が即時型反応を呈していた可能性も否定できない。




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