右利きで左手に強い手湿疹の3例 

 
遠藤薫他:ニンジンアレルギーを呈した右利きで左手に強い手湿疹の一例、報告学会不明
遠藤薫他:右利きで左手に強い手湿疹の3例、報告学会不明

 
はじめに


 アトピー性皮膚炎のように、原因が主として、体内にあるものや、吸入したり、食べたりしたもののとき、左右対称に同じ程度に発疹ができるのが普通です。
 全身同じようにかゆくても、汗がたまるところなどかゆみを起こしやすいところはありますが、それでもやはり、左右対称です。

 それでも、右利きのときは、たいていは、夜間寝ている間は、利き腕の右手で引っ掻いています。
 ということは、たいていは、左肘窩、右頸部、右耳周辺、右膝窩、右臀部の方が湿疹がひどいのです。

 幼児が右利きであって右肘窩の湿疹がひどければ、しばしば、左利きを矯正されている場合です。
 中学生以降になると、右手にペンや鉛筆、携帯電話を持っているために、フリーな左手で引っ掻いて、それで引っ掻きやすいところが悪化します。
 左手で携帯を操作している人は、フリーな右手でということになります。

 主婦湿疹は、たいていは右手の方が左手よりひどいようです。
 主婦仕事は、利き腕の右手が活躍し、素手で拭き掃除、洗い物や料理をしていると、右手がボロボロになるのは当然の結果です。
 そんな湿疹も、触って、こすれて起きるときは、手のひらや指腹の方にできます。
 洗剤の中に手を突っ込んでいると、皮膚の薄い手背や指背の方がひどくなります。
 ゴムの手袋をそのままつけていて、ラテックスなどのゴム手袋のアレルギーがあるときも、手背や指背のほうがひどくなります。

 美容師や理容師の手湿疹も、右手の方がひどいようです。
 患者の髪の毛をカットするとき、左指の2指と3指の間に挟むことが多く、毛染めで接触皮膚炎を起こしているときは、その部分に湿疹ができます。

 そんな左右対称の論理から外れて湿疹ができているときは、固定薬疹やカンジダなどの皮膚真菌症のようなものもありますが、何らかの外的要因が原因になっています。
 原因となっている外的要因が除かれなければ、そんな湿疹はステロイド外用剤をつけていても完全にはよくなりません。 
 
症例1


患者:16歳、高校2年生(高1夏まで剣道部)
初診:平成6年8月2日
主訴:左手に強い手湿疹
家族歴:特記すべきことなし
既往歴:腎炎(6歳)、伝染性軟属腫、汗疹

現病歴:平成5年7月ころより前腕、手指にかゆみを伴った発疹が出現しました。
近医でセレスタミン2錠/日を内服し、リンデロンDP軟膏を処方されて治療していました。
(注 セレスタミンはステロイドと抗ヒスタミン剤の合剤、リンデロンDP軟膏はvery strong レベルのステロイド)
その後、平成5年秋にセレスタミン内服を中止したところ、発疹が全身に拡大したため、仕方なくずっとセレスタミン2錠/日を内服している。
右利きにもかかわらず、左手に強い手湿疹がよくならないため大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診しました。

検査所見:IgE
341 IU/ml、RAST(ハウスダスト36.72 Ua/ml、ヤケヒョウヒダニ35.57、コナヒョウヒダニ39.13、卵白0.00、小麦0.01、大豆0.05、カンジダ0.04、ペニシリウム0.02、ブタクサ0.00、カモガヤ3.77、スギ0.00、犬皮屑0.05、猫皮屑4.04)、白血球数8000(好酸球数81)、赤血球数519万、ヘモグロビン 15.1、GOT31、GPT 84、ALP 207、GTP 44、総タンパク質7.7、LDH 267、尿素窒素 15.6、クレアチニン 0.9、コーチゾル 0.1、ASLO <200

臨床経過:セレスタミンの内服を少しずつ減らし、平成6年12月にようやく中止しました。
しかし、左手に強い手湿疹はその後も続きました。
平成8年3月、問診で、以前より毎日、
腕立て伏せをしていることが分かりました。
腕立て伏せは本来両手に力がかかるものですが、とりあえずそれを中止するように指示したところ、手湿疹は急速によくなりました。
結果としては、内服していたステロイドが治りにくい原因にもなっていた可能性があります。


症例2

患者:36歳、専業主婦
初診:平成6年7月18日
主訴:左手に強い手湿疹
家族歴:子供が3人、長男にアレルギー性結膜炎
既往歴:腎盂炎(28歳)、足白癬

現病歴:結婚後、数年前より、手荒れが出現し、近医皮膚科でステロイド外用剤をもらって、よくなったり、悪くなったりを繰り返していました。
少しずつ悪化傾向があるために、大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診しました。
患者は右利きで、右手指にも湿疹は見られましたが、左手の湿疹が指腹から手掌全体に広がり、左の方が症状が強くなっていました。
日常の炊事、洗濯では手袋を使わず、もっぱら素手で家事仕事をしていました。
これまで食物を食べて全身または口囲のかゆみを感じたことはありません。
しかし、問診で、
ニンジン、セロリ、タマネギ、ナス、エビ、牛肉、豚肉などを触ると、かゆみがあることが判明しました。



検査所見:IgE 466 IU/ml、RAST(ハウスダスト26.54 Ua/ml、コナヒョウヒダニ
24.47、牛乳0.02、小麦0.05、大豆0.05、米0.04、ブタクサ0.00、カモガヤ0.00、ニンジン 16.40セロリ 2.36ホウレンソウ 0.47、トマト0.07、ジャガイモ 0.13、タマネギ 0.00、タケノコ 0.08、パセリ 0.02、ゴマ 0.10、リンゴ 0.03、豚肉 0.86牛肉 0.96ラテックス 0.44)、白血球数7600(好酸球3%)、赤血球数454万、ヘモグロビン 13.8、GOT17、GPT 12、GTP 14、総タンパク質7.1、LDH 333、尿素窒素 12.9、クレアチニン 0.7、IgG 1496、IgA 264、IgM 235、ASLO <200、抗核抗体(-)。

鳥居製アレルゲンによる皮内テスト
(陽性 ハウスダスト、エビ、タマネギ、ニンジン)
(陰性 ブタクサ、カモガヤ、スギ、犬毛、猫毛、ソバ、牛乳、全卵、小麦、大豆、米、サバ)
現物スクラッチテスト
(陽性 ナス、トマト、タマネギ)
(陰性 大根、キャベツ、キュウリ、インゲン、ジャガイモ、グリーンアスパラ、生理食塩水)

臨床経過:料理で野菜、肉類などを直接触らないように努力しているが、徹底するのは難しい。
しばしば手袋をしないで料理・家事をしており、手湿疹は以前より軽減したものの、相変わらず続いている。
ニンジン、セロリはその後料理には使っていないとのこと。
平成7年7月ころよりときどきじんま疹が出現している。
じんま疹はたいていは夕食2時間後ころに出ている。
平成7年8月にキャンプで焼き肉・バーベキューをしたところ、全身にじんま疹が出現しました。
平成8年1月21日夜、夕食にスキヤキを食べて、全身にじんま疹を発症しています。
日常、牛肉や豚肉、エビフライは食べています。
食物アレルギーが出現した理由は不明ですが、強いて上げると、妊娠・出産、腎盂炎、引っ越し、近医皮膚科の薬剤です。

参考:セリ科 ニンジン、セロリ、アシタバ、トウキ、ミツバ、ボウフウ
ネギ科 タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ニラ
ナス科 ナス、ジャガイモ、ピーマン、トウガラシ、トマト、タバコ



症例3


患者:34歳、水回り・配管工事の仕事をしている
初診:平成8年11月5日
主訴:左手に強い手湿疹
家族歴:長男にアレルギー性鼻炎
既往歴:特記すべきことなし

現病歴:小児期より全身にドライスキンがあり、頸部や肘窩・膝窩にかゆみのある湿疹がありました。
2カ月前より左手指に湿疹が出現し、次第に両手指、手のひらにも広がりました。
近医皮膚科でステロイド外用剤を処方されていましたが、皮疹が全身に広がってきたため、大阪府立羽曳野病院皮膚科を受診しました。

検査所見: IgE 1542 IU/ml、RAST(ハウスダスト14.25 Ua/ml、ヤケヒョウヒダニ13.09、卵白0.00、小麦0.01、大豆0.05、カンジダ1.72、カモガヤ 92.79、スギ 6.71、猫皮屑 1.88)、白血球数 6200 (好酸球数 675)、赤血球数 507万、ヘモグロビン 15.4、GOT 17、GPT 21、GTP 19、総タンパク質 7.5、CRP 0.4、ASLO <200、リウマチ因子(-)。

臨床経過:問診の結果、以前より、いろんなものでかぶれやすいとのことです。
軍手をするとかゆいので、革手袋をつけています。
仕事では、左手で潤滑油(CRE556)のついた鉄を支え、右手でハンマーを使っています。
正月休み中、手湿疹は急速に軽くなりましたが、休みが明けて仕事を始めて再び悪化しました。